わたしたちが孤児だったころ

趣味読書

カズオ・イシグロ 著

時は1930年から、第二次世界大戦後の1958年まで。
バンクスは少年期に上海で暮らしていた。
少年期に過ごした上海に置いておかれた記憶と、突きつけられた現実から見出した使命。
自分がやらなければならないことを、周りの環境がいかなる状況であれ、見失わずに選択する。
それが運命であり、そうしなければ心の平穏が訪れない。

子供の頃に思っていた、母の記憶を追い求める。
それは誰もが持つ感情であるが、意識するかは人による。
周りの環境や母本人の変化により、自分が持っている母親像からズレが生じていく。
日々接していれば、そのズレ徐々に広がるもので、意識することはないだろう。
しかし、母に会わない(会えない)時間が長くなると、いざ、母を目の前にしたときに、ズレが大きいことに驚かされる。

大きな「ズレ」を受け入れられるか否かは、自分が生きてきた過程や人生観によるだろう。
その時に、バンクスは気持ちを感情にゆだねない。
そして相手を思いながら、自分へまなざしを向ける。

生きてきた経験から、記憶と現実のズレをどのように受け入れるかが問われる。
わたしたちは、記憶と現実の狭間では、孤独なのである。