原田マハ 著
ギャンブル狂で無類の映画好きの父と、不動産開発会社に勤めていた娘。
会社を辞めて父が働くマンション管理人を、父が入院している間勤めているときに、ふと目にした管理日誌。
そこには、日々観た映画の感想が書かれていた。
その文章に引き込まれる娘。
触発されるように、自分が最近観たニューシネマパラダイスの評論を書き出し、そっと管理日誌に挟んでおく。
父はそれを見つけて、映画雑誌会社のHPに投稿する。
その文章を編集長が読み、娘は映画雑誌会社のライターとなる。
編集長の引きこもりの息子は、投稿した父の文章に惚れ込み、父も映画評論を書くことになる。
タイトルは、「キネマの神様」
父が書き込む映画評論は、映画愛にあふれている。
文章が上手い下手でなく、愛に満ちている。
あー、この人はこんなに映画が好きなんだな、というのが湧き出る文章を書く。
それに対抗するように、父の評論に反論を書く謎の人物が現れる。
英語サイトに書き込む謎の人物。
父と応酬する中で、そのやりとりは友情へと変わっていく。
映画に対する様々な解釈があり、それを表現する文章を書き分ける力が著者にはある。
単館上映の映画館が無くなる一方、シネコンとして上映環境は変わっている。
その状況でも、大きなスクリーンで、暗く静かな環境で、自分の世界に入り込み、別の物語を生きることは、その人の人生を豊かにしてくれる。
その世界に愛情を注ぎ込み、素直に文章で愛を綴れる。
この小説は父への愛情も、映画への愛を通して結びつけてくれる。