香君 上下

趣味読書

上橋 菜穂子 著

著者は、三つ事がつながると物語が立ち上がると言っていた。
その三つを推測して、物語をまとめてみたい。

一つ目、帝国がオアレ稲を、支配の武器として使うこと。
悪環境でも育つオアレ稲は、民を飢えから救ってくれる。
しかしオアレ稲は、他の穀物と同時に栽培できない。オアレ稲が強すぎるからだ。
種籾の取り方は、皇帝、新旧カシュガ家当主、香君のみが知っており、
種籾は、帝国から属国へ配給されていた。
オアレ稲の種籾がなければ、民は稲を栽培できなくなり、飢えてしまう。
属国は、オアレ稲に依存することにより、帝国の支配から逃れられない。

二つ目、香君(オリエ)とアイシャ
オアレ稲の実りをもたらす象徴である香君と、香りを鋭く感じて状況を把握できる能力を持つアイシャ。
帝国支配のために利用される女性と、香君としての能力を満たしている少女。
二人の立場の葛藤が、浮かび上がる。

三つ目、異郷からの来襲
オアレ稲にたかる天敵から身を守るため、オアレ稲は香り強める。
しかし、香りが呼んだのは、オアレ稲をも食い尽くす、異郷からやってきたバッタのような生物だった。
オアレ稲も、初代香君が異郷からもたらした、神の恵み。
神の恵みをコントロールできなくなったとき、オアレ稲に甚大な被害を及ぼす。
オアレ稲に依存していた民は、稲を全て焼き払い、バッタの襲来を止めなければならないことを、その事態が目の前に起きるまで理解できない。
稲を全て焼き払う命令を下せるのは、皇帝または香君。
帝国を維持するための駆け引きが起こる。

帝国を維持するために必要な象徴と武器が、異世界と自然現象に対峙していくとき、帝国がいかに民を重んじて決断していくことが難しいのかを、考えさせられる。
帝国の維持と、民の命は、利害関係が一致するわけではない。常に矛盾の中にある。